Maggy

*この作品は、TYPE-MOON人気投票に投稿した作品です(微妙に改訂有り)投稿Noとしては1495番目だったようです……凄い。
全然知らなかったんですが、投稿したのが最終日だったようで。

 

 

 トンコトンコトン……
 古風なお囃子の音にあわせ、士郎が拍手と共に舞台へと現れた。

「え〜こんにちは。早速ですが……」
 と、やおら新聞紙を取り出し、幾つかに折って容器を作り、水を流し込む。
 がしかし、ただの紙では水が漏れない訳もなく、だらだらと紙から染みてしまって大失敗。
「あらららら……不良品ですか」
 わざと慌てる士郎に、お客様は失笑する。

 と、そんなのを全く気にせず、士郎はいつもの調子で本題を始めた。
「あのね、これ遠坂さんちの凛さんに好評だったんだけど、今手の中には何もないですよね? これが、僕が一つ呪文を唱えるだけで、手から剣が出てくるんですよ」
 ええ〜、信じられない〜という反応をするお客さん。
 それを見て困ったようなはにかみを見せた士郎は、
「それじゃあ今日は、お客さんのリクエストに答えちゃいます。出して欲しい剣ありますか?」
 そうやって客席を見渡すと、客席の手前の方にいたおばちゃんから『日本刀!』の声が。
「日本刀? あー、あいにく日本刀は切れちゃってるんですよ〜」
 残念そうに言いながら必ずリクエストに答えないのはいつもの芸風で、客席からクスクスと笑い声。
「えっ、エクスカリバー?」
 逆に士郎がおばちゃんにとぼけて聞くと、それがネタだと分かっているおばちゃんは『はいはい』って顔をして笑う。
「ごめんなさいね〜。じゃあリクエストが出たので、エクスカリバーを」
 と言うと、士郎はやおら手にしたマントで右手を隠してもぞもぞとやる。

『投影、開始。(トレース・オン)』

 そう言ってマントを取ると、手には立派なエクスカリバーが現れた。
 お客さん、大喜びで拍手喝采。
 それを前に、ちょっとかっこよさげに構えてみる士郎。もちろん、へっぴり腰であまり絵になってない。
「これ、山海堂で一万八千五百円だったんですけどね」
 と言ってお客を笑わせるが、実のところは正真正銘の『投影した』本物だったりする。
「じゃあね、こればかりじゃアレなので、次やりましょうね」
 と、エクスカリバーを側にあったテーブルに片づけた。

「次も凄いですよ。僕、傷がすぐ治るんです。
 ほら、よく時代劇なんかで『このガマの油をちょいとつければ……』ってあるでしょ? それが出来るんですよ」
 と、テーブルの上のシルクハットを漁って取り出したのは、いかにもな貝の形をした入れ物。
「ちなみに、これがガマの油」
 そう言いながらお客さんに見せると、おもむろにマントを手にかけ、

『投影、開始。(トレース・オン)』

「そしてこういうのですから、形にはこだわらないと」
 手に一振りの日本刀を呼び出していた。
 何故かお客さん大爆笑。
 ん? という表情をしていた士郎が、自分の手中にある日本刀に気付き驚いた様子で、
「日本刀、ありましたね〜」
 ととぼけるから、また笑いがこぼれる。
 その波が一通り収まったところで、
「ではでは。お子さんは見ちゃダメかもしれないけど、とくと御拝見」
 と、微妙に時代がかった勘違い口上を始める。

「この日本刀、この世に斬れぬものはなしと謳われた妖刀正宗――」
 ちなみにもちろん本物である。
「この刀で腕をちょいと傷つけまして――」
 と、本当に前腕へ刀を当てて引くと、ちょっと痛そうな顔をする士郎。
 流石正宗、音もなく士郎の肌には長さ十センチ程の切り傷ができ、ぱっくりと口を開けたそこは、僅かに遅れて血を流し出す。
 うわぁ、きゃあと客席からは悲鳴にも似た声。だが、士郎はそんな声を気にしないで続けた。
 先程の貝の入れ物を開けると、中にあった怪しげな軟膏を手にたっぷりと付ける。
「ところが大丈夫、このガマの油をちょいとつければ――」
 すうっとその軟膏を傷口にひと塗りし、しばらくすると――
「ほら、ふさがらないと思った傷もこの通り」
 おお〜、と驚嘆の声と拍手喝采の中、確かに士郎の出血は止まっていた。
 タオルでごしごしと傷口を拭うと、先程の切り傷も嘘のように消えてなくなっている。
「これ、通信販売で五千円でした。欲しい方は後で楽屋の僕の所まで」
 と士郎はガマの油を指さして笑いを誘い、剣を片づけた。

「じゃあ、最後にとっておきです」
 と、取り出したのは最初と同じ新聞紙。
 お客さんは笑い出す。
 しかしそこは士郎。我関せずとのんびり折って先程と同じようにすると、

『強化、開始。(トレース・オン)』

 お決まりとなった呪文を唱えてから、
「ここに水を入れますと――」
 『強化』した新聞に水を流し入れた。
 今度は鉄のように強化された新聞紙からは水は一滴も零れず、拍手喝采の嵐。
「はい、ありがとうございました〜」
 そのまま拍手と共に、士郎はステージの裾へ消えていた。

 その夜、遠坂邸。

「はい、遠坂」
 と、士郎は先程のステージで貰ったギャラを凛に手渡す。
「ありがと……はぁ……」
 凛はそれを素直に受け取りながら、何故か溜息をひとつ。
「……いくら金穴で宝石が足りないからって、こんな魔術を手品まがいにして切り売りなんて……」
 頭を抱えながら、この境遇に麻痺しかけている自分に首を振る。
 思いついたのは凛本人であるのに、何故か後悔満点のご様子であった。
 ――確かに、こんな事をしていると遠いお空のご先祖様に知れたら、嘆き悲しまれるに違いない。
「何言ってんだよ。あくまでこれだって『術』だぞ?」
「……士郎が何と言おうが、世の中じゃただの『手品』よ……」
 更に、世間に注目を浴びる事もまんざらではないな、と士郎がこの状況を楽しんでいるから余計にタチが悪い。

 衛宮士郎――実は『魔術使い』ではなく、『奇術使い』の才能を持ち合わせていたらしい。今やマスコミも密かに注目を傾けている。

「それに遠坂に魔力を貰って安定してるから出来るわけで、これでも等価交換のつもりなんだけどな……」
「……」
 そんな士郎の謙虚な申し出に、現実として恩恵をあやかっている凛は何と言えようか。
「はぁ……」
 後に『手品界の英雄エミヤ』と世界中で呼ばれる事となる男の前で、凛はまた深く溜息をつきながら、ガックリと肩を落としていた。

 それはさておき。

「あのね、これウチの妹の桜には評判だったんだけど――って、僕は『男はつらいよ』の寅さんじゃありませんからね?」

 ――と、実は士郎の一門となった慎二が居るという事は、また別の話である。

(おわり)

 

 

〜後書き〜

 士郎→司郎
 慎二→審司

 ……マギー一門かよ……_| ̄|○

 思いついた時は死ぬ程ガックリ来たのに、「ネタになる」と思ってしまったのは……身体にそんな血が流れているからなのか。
 一発ネタというかなんというか……もう勘弁して。
 ありがとうございました。








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