二つの花



 アルクェイドと結ばれて、早数ヶ月。
 何とか秋葉を説得して、アルクェイドを我が家に住まわせる事になった。
 出来れば、いつでも一緒にいたかったから。
 どうせ部屋も空いていた訳だし、琥珀さんは一人でも多い方がいいですねって賛成してくれた。
 で、嘘のように平和な日々は続いている。

 が……

「なぁ……」
「ん?志貴、どうしたの?」
 窓に手をかけて、ふと月を見上げていたアルクェイドがこっちを向く。
「……いや。お前、お姫様だよな?」
「まぁ、そういうことになるね」
「……」
「どうしたのよ、そんな変な顔をして。何かおかしいの?」
「おかしいと言えばおかしいけど……」
「何よ、人の顔見て」
 むー、といつものふくれ顔になる。
「いや、顔じゃない……その服だ」

 俺はそれを指さしてため息をつく。
 上下小豆色の服に、エプロン。もちろんカチューシャに白いタイツのおまけ付き。
 アルクェイドは、何時からかメイド服を着るようになっていた訳で……
「もうちょっと、お前には威厳とか無いのか?」
 頭を抱えながら、そのギャップに呆れるばかりだ。
「えー。だって志貴だってこの姿してると嬉しそうだし、着やすいし、私だって気に入ってるから。それに、こういう仕事にはこういう格好するのが普通なんでしょ?」
 アルクェイドはぴら、とスカートの裾を持ち上げる。
「それ自体も間違ってると思うんだけど……」
 スラリと覗くタイツとその太股に、目のやりどころを失い、顔を反らしながら言う。
「だって、すること無いんだもん。志貴は昼間学校行っちゃうし。私ばかりお客さんじゃ悪いと思って」

 気付けば、アルクェイドは格好だけでなく屋敷の仕事も行っていた。掃除、洗濯、食事。それはまるで……というか完全にメイドの仕事で、しかももう板に付いてしまってる。どれもそつなくこなすのは、実は姫である故なのかも知れないが。
 そして今も、夜の風を取り入れた窓を閉め、カーテンを引いている。それをベッドに座って眺めながら、ふと先程の事を思ってしまったのだった。

「まぁ、迷惑にならないんだからいいか……」
 あいつがいいなら、そうさせておくべきだろうと思った。正直、みすみすその格好を止められるのも惜しい気がするし。

 最後のカーテンを引き終え、振り返りながらニヤリとするアルクェイド。
「志貴、目がエッチだよ」
「な。バカ言え」
 少しにニヤケてたのを悟られたか、からかわれる。

「でも、志貴ったらこの格好だといつもより激しいから……」
「ぶっ!」
 アルクェイドがちょっと顔を赤らめる。
「そう言う訳じゃないぞ。脱がしがいがあるからそう思うだけだ」
 しどろもどろになりながら、俺は否定する。
「嘘つき。いつも最後まで全部脱がさないじゃない。ガーターだけとか、カチューシャだけとか、エプロンだけとか……志貴ってフェチよね」
「……」
 そう言われてしまうと返せない。
「そうさ、俺はフェチだよ」
「あ、認めた」
 素直に諦めて開き直る。
「でも、メイドさんはご主人様の「下のお世話」もしないとダメだからね〜」
「っ……て、ご主人様……」
 そう言われて、クラッとする。
 その響きが、何となく俺の中の支配欲を駆り立ててしまう。
 というか、そんなの何処で知ったんだよ……。

「ねぇ、志貴。翡翠とはどうだったの?」
「なっ……」
 覗き込むように、アルクェイドが痛いところを突く。
 翡翠は、アルクェイドが手伝うようになってからは専ら俺に遠慮するようになっていた。というか、俺回りの仕事はなるべくアルクェイドに任せている感じで、起床やベッドメイク等の細かいところは相変わらず翡翠が行っていた。
「んなの、ある訳ないじゃないかよ……」
 と、ぶっきらぼうに答える。

「ふーん」
 と。アルクェイドはニヤニヤと笑う。そして、こちらに歩み寄ってくると
「じゃ、こんな事、して貰わないんだ」
 と、いきなりベッドの上にのしかかってきた。
「な、何するんだ……よ」
 俺は、突然のそれに気勢を上げるつもりだったが、すぐ目の前にその優しい香りの体が押しつけられて、思わず息を呑む。
「ね、志貴のここ、もう反応してるよ」
 と、ズボンの中をまさぐられて、反応してしまう。
「そ、それはお前が……」
「ふーん、さっきから私の姿見て、欲情しちゃったんだ」
「ち、違う」
 それはそんな事されたら誰だってそうなるだろう。しかしアルクェイドは構わずさすり続ける。
「ふふっ、志貴のかわい〜。こんな姿、翡翠には見られたくないよね」
「なっ……?」
 さっきから翡翠は関係ないだろ……って

「いいわよ〜、入ってきて」
 アルクェイドがそう呼ぶと
「はい」
「な……」
そこには、翡翠がいた。
 
「ひひひ、翡翠!?」
 思わず声が裏返ってしまう。
「志貴さま、嘘はいけないと思います」
 翡翠は冷静に、俺の非を責める。
「へっへ〜、知らないとでも思った?」
 アルクェイドは意地悪く笑い
「翡翠から聞いてるわよ。志貴、私が来る前は翡翠にも相手させてたようね」
「……」
 ばれてる。完全に。
 というか……
「翡翠……」
 そちらに目をやると
「すみません志貴さま……その……つい……」
 と、真っ赤になって翡翠が答える。
 多分、暇なアルクェイドにつき合って話をしているうちに、上手く引き出されちゃったのだろう。恐るべしお姫様、聞き上手・話させ上手も姫としての資質十分な証か……つくづく良くできた奴だ。

「ふふっ、そんないけない嘘つきご主人様にはお仕置きだね」
 そう言うと、アルクェイドは胸のリボンをしゅるりと外す。
 そのまま、俺の眼鏡の上にそれをかけ、目隠しをしてしまう。
「な、何するんだよ!?」
 突然闇に覆われ俺は怒るが、股間をさすられて声にも覇気がない。

「ふふっ、ちょっとしたゲームよ」
 と、見えない視界の向こうでアルクェイドが楽しそうにしている。
「今から、どっちが触れてるか感触だけで当ててごらん。志貴だったら分かるでしょ?」
 と、ねーと翡翠に同意を求めている。
「感触って、何を……」
 という前に、じーっと前が解放されていく音。
「って、アルクェイド!?」
 そのまま、ズボンとトランクスを引き下ろされてしまう。びよんと音がしそうに俺のペニスが立ちあがる。
「わっ、志貴目隠しされて感じてるでしょ?」
 と、それを見たらしいアルクェイドの少し驚いた声。
 翡翠は無言だが、そばでそれを凝視してるだろう。そう考えると更に恥ずかしさから反応してしまう。
 目隠しされて構える事が出来ずに触られるから、悲しくもいつもより敏感になってるのは確かだった。俺のペニスは大きくそそり立ち、自己主張をしている。

「何をって、決まってるじゃない。「下のお世話」よ」
 と、ぎゅっと俺の陰茎を包む手の感触。
「くっ……」
 俺はたまらず声を詰まらせてしまう。
「じゃあ、これはどっち?」
 と、ゆっくりそれは前後する。リズミカルに、俺を刺激する。
 早くも、その妖しい刺激に俺の先端はにじむモノがあった。
 と、ちろりとその亀頭に触れる別の粘膜の感触。
 舌に、その先端を舐められいた。そしてそれはやがて俺全体を舐め回り、大きくくわえ込まれた。
 じゅぷ、じゅっ、と口とペニスの奏でる嫌らしい音。
「くはっ……」
 その快感に脳が痺れる。
 と、それは突然動きを止め、ゆっくりと俺のモノから離れてしまう。
「あ……」
 中途半端に止められて、俺のうずきは収まらない。
 しかし、止めないでくれなんて恥ずかしい事は言えなかった。
 
「ふふっ、志貴のがビクビクいってる」
 アルクェイドが面白そうに言いながら
「今のはど〜っちだ?」
 なんて言ってくる。
「そ……」
 どっちと言われても、その感触が気持ちよくて考える暇もなかった。
 間違えた事なんて言える訳もなく、俺は黙るしかなかった。

「もう、面白くないんだから……じゃぁ、今度はどっちだ?」
 と、また俺のシャフトに手の感触。
「くっ……」
 待ちわびたその感触に、思わず腰を突き上げる。
 と、手がビクンとして一度離れる。それがビックリさせてしまったのだと思い、もう一度触れられる時は我慢する。
 が、今度のそれは明らかにさっきと違っていた。
 その手は、先程のリズミカルとは全然違い、ぎこちなく動く。そして、先端に触れるのも先っぽをチロチロするだけで、物凄く控えめだ。
 漸く亀頭をくわえるが、それ以上奧まで進まず、そこだけを口で転がすようにされる。
 何だか、ぎこちない。まだ慣れず初々しい感じ。
 手慣れていないその性戯に、俺は薄々感じるモノがあった。そして
「……はぁ」
 と、愛撫の間に深いため息。それで俺は確信してしまっていた。

「翡……翠……?」
 俺は、呻くようにしてそう答えてしまう。
「むー。志貴、何で私の時は答えられなくて翡翠は答えられるのよ」
 アルクェイドが怒ったように言う。
 正直、翡翠を上手く丸め込めて抱いたとはいえ、その数はそれほど多くない。翡翠は俺に触れることが出来るが、まだ抵抗があった。それが分からせてしまっていたのだ。
 これだけ違えば、確かに分かる。アルクェイドとは何度もそうしているから、彼女は手慣れていた。それに気付かないとは、自分でもよほど今欲望の赴くままなんだな、と思ってしまう。

「志貴……さま」
 翡翠が恥ずかしそうに、でも少し艶っぽい声でそう言う。いつの間にか手は離れ、また解放されてしまう。

「じゃぁ、今度はどっちだ?」
 とアルクェイドが言うが、俺はもう区別できる。冷静に構えられる。
 だが、俺の体はそうは言ってくれない。玩ばれてもう我慢の限界だ。
 どっちが来ようが委細構わず、その頭を話さないようにして、その口に発射させたかった。

 しばしの間
 
 やがて……
 そろりと、手が添えられる感触
 そして、舌が触れる感触。

「……!?」

 冷静になるはずだった俺の思考は止まり、思わず目隠しを剥ぎ取ってしまっていた。